モッチョム岳 2025
昨年は天候不良で登れなかったモッチョム岳。今年は山頂へ行くことができた。メンバーのそれぞれは骨折の影響がある者、本格的な山歩きは久しぶりと挑むには完璧とは言えないが全員がクライマーという強みがある。計画は行けるところまで行くという予定で歩くことになった。まずはルート全体の3分の1である最初の目的地の万代杉を目指した。本来ならこの時期でも動くと汗が吹き出すルートであるが、この日は涼しくて長袖、長パンで丁度良かった。どこまで行くかはみんな次第、岩登りはそれなりの経験者だが、木の枝や根っこを掴んで登るのはそんなに経験していないと言う。

順調な登りで、2年ぶりの万代杉に出会えた。次の目標はここまでとほぼおなじ所要時間のかかる展望台になると説明した。もうここで帰りたい!と言う人はいないので、次に進むことになった。ここからは今まで以上にところどころで設置された標高看板を励みに、ルート上で山頂よりも高い場所にある展望台を目指す。

網目のように伸びた根や花崗岩に絡みつく根っこ、枝や岩の突起をうまく使って登っていく。「右の方にガバ、左にはハンドルがあるよ」「岩のくぼみにスメアね!」というクライミング用語のやり取りになっていた。体の重心をうまく移動させて登る姿は見ている側としても安心感が湧いてくる。展望台に着いたのはお昼前の時間だった。海側を見ると青空が広がっているのに、風に乗って島の中心部からは小雨が飛んで来た。
「向こうに見えるのが山頂で、ここから1時間くらいかかるけれども、どうする?」と尋ねた。

行くしかないでしょう!という返事が返ってきた。山頂までは尾根伝いに進み、登ったり、下りたりしながら森の陰に戻りながら目指していく。

ここからは口数は少なくなっていた。Tさんは後ろ向きに降りるところなどでは、遠い段差よりヨセミテ仕込みの岩目に足先を突っ込むフットジャムを披露。運動神経の良いAちゃんは太く立派でも信用できないロープより、確実な岩のホールドを探し当てながらのクライミングダウンを繰り返す。Tちゃんは体幹バランスを活かし冷静で確実にていねいな足置きをしていた。こんなに個性が現れる山登りは他ではなかなか見られないが、何かに導かれるように山頂へ全員いくことができた。

山頂手前からは天気雨と山頂直下では風が強まったので記念撮影を手短に済ませたら、雨風がしのげるところまで下りてお昼ご飯にした。食べ終わったら、登りとほぼ同じ時間を要する下り道を歩き始めた。森の木々が雨を多少遮ってくれたことに救われ、みんなの経験と気合、そして最後は根性で登山口へ戻ってきた。

「想像よりもテクニカルで大変だった、自分たちだけで行ったら、途中でひきかえしたかも!」と言われ、私はこのモッチョム岳が好きになってマッターホルンを目指したけれど、友情にひびが入らない事を願った。

一人山頂の裏側へ下りて祠にあいさつをして、私の大好きな山を仲間に紹介できた。私は一人、満足気に千尋の滝を眺め、屋久島への想いを深々と噛み締めた。

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