偶然の引力

世の中には、偶然という言葉では片づけられない出来事が、時に立て続けに起こることがある。
たとえば、ある日のこと。
食事会のお店がいつも通っているインドアゴルフ練習場から徒歩で5分のところにあり、練習してから向かうと「戸隠つきや」という店名にちょっとした親近感を覚えた。集まったメンバーは山仲間と一緒に行った『ワインマン』のシェフと私の話を聞きたいと言う方々だった。本を購入していただいただけではなく、登山に無縁な人達と山話が盛り上がり、今までにない視点からの質問を受けてとても嬉しくなった。
別の日、歯の定期検診に行ったときのことだ。待合室へ戻り支払いをしていると、私を呼ぶ声が聞こえた。振り返るとそこには知人が診察を待ち、なんでここに?と笑い合う。予約の日時と場所がぴたりと重なることなんて、どれほどの確率だろう。そして、その後夕食をご馳走になり、家まで送っていただいた。不調が多い私だが、なぜか歯だけは健康というのも、小さな奇跡のひとつかもしれない。
そしてゴルフ場でも、もう一つの「偶然」が待っていた。東京の低酸素室でお世話になった豪太さんが、ゴルフ場にいらっしゃるという。予定日は聞いていたものの何時に来るかはわからないので、ゴルフ場関係者に私の本を手渡す依頼をし、彼にも受け取ってくださいねとメールをしていた。その日はいつもと違う時間帯にふらりと練習に行くと、なんと豪太さんの運転する車がわたしの前を通り過ぎて再会。山かスキーでしか出会わないはずの人とゴルフ場で、しかもこの広い駐車場で、、、。そんな偶然、あるわけ……いや、あったのだ。
極めつけは、音楽の世界で起きたこと。旭川のドラムの師匠が「東京にすごく信頼してる人がいる」と聞いたので名前を聞いたところ、なんと私が東京で習っているドラムの先生と苗字が一緒。珍しい名前の一つなのでさらに会話を進めていくと、私の東京の師匠の弟さんが、旭川の師匠の師匠だったのだ。そんなことってあるのか? 兄弟でドラマーもなかなかいないだろうが、それぞれの師匠がそれぞれに私の人生に関わっている。この世界は狭いのか?何かの導きなのか?この時ばかりは信じられな‼︎と心で叫んでしまった。
これだけの偶然が1ヶ月ほどの間に続くと、ふと思ってしまう。
神様って、試練ばかり与える存在かと思っていたけれど、たまにはこうして遊んでいるのではないか?いたずら好きな神様が、再会や発見の種をばらまいているのかもしれないと。
不調だらけの身体も、先の見えない日々も、こういう「面白い偶然」に出会えるなら、何が起こってもいい。偶然に見える事柄が引き合い、不思議な意味を持ち始めることがあるのかもしれない
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