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サバイバー

2017年の7月4日は北米大陸最高峰のデナリの頂上に立った日である。その前年に乳がん手術を受けてホルモン治療中の時のことだった。デナリの登頂にはたくさんの荷物を背負い、荷物を乗せたソリを引きながら20日以上のテント生活をしなくてはならない。その頃は術側の脇周辺が圧迫されると腕が痺れてむくんだりしていたので、出発前に現地のエージェントに色々と相談をしていた。その時に私をサバイバーと言った。治療中を含め癌と診断された人のことを言うそうだ。生き延びている人だから他の人と変わらないとも言われた。しかし、身体的な状態は他の人とは同じではないと強く訴えた事がとても懐かしい。

今では私の周りには多くのサバイバーがいる。患者会に参加するのが嫌だった私は経験者の話をあまり聞けず一人模索しながらもがき、苦しんでいたこともあった。当時一番ショックを受けたのは今後クライミングはできないと病院で言われたことだった。もっと練習して上手くなりたいと思っていた頃に病気が理由で出来なくなるなんて理不尽だと思った。その旨を鈴木昇己さんの妻芳江さんに話すと大丈夫よ紹介したい人がいると言われた。その方は以前から顔見知りだった牧ねぇだった。サバイバーだったなんて知らなかった。それを知ってからは乳がんに関して困っていること、辛いことや悩んでいることをたくさん相談した。そして彼女の体験を通じ切り抜け方や対処法を色々と教えてくれた。ホルモン治療の副作用が辛くて辞めたいというと続けるようにと何度も言われた。辛いのは薬が効いているってことだからねと笑顔で見守ってくれた。乳がんの治療や病状は様々だけど、無理をしなければクライミングが続けられるのだと彼女の姿から可能性を感じることができた。

この間歩いた黒斑山は牧ねぇの雪山練習場であるとも聞いていた。歩きながら彼女を想い、最近どうしているのだろう、しばらく会っていないなぁと考えていた。その数日後牧ねぇの話が耳に入りこの世を去ってしまったと聞かされた。突然の話にしばらくは放心状態になってしまった。一緒に過ごしてきた時間を思い起こせば楽しかったことも今は悲しみに塗り替えられてしまう。やらなくてはいけないことがあっても集中ができなくなってしまう。でもそれを牧ねぇが知ったら何やっているのと叱るだろう、どんなことにも意味があるんだからと言われてきたことを思い出す。だからサバイバーの後輩としてもこの悲しみを乗り越えていこうと思う。

牧ねぇ今まで支えてくれてありがとう!これからも変わらずに見守ってください。
そしてどうぞ安らかにおやすみください。

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