消えたクラブ

いつも車に積みっぱなしのゴルフクラブが、消えた。それに気づいたのは、コースへ向かう当日の朝だった。トランクには、ゴルフバッグとパター、アプローチ、サンドそして3番ウッドの4本だけが残されていた。他のクラブは一体どこへ行ってしまったのだろう?
最後に使った日を思い出し、忘れ物として問い合わせるべきか、それとも盗難か?と焦りながら考えが巡る。買ったばかりの新品クラブがなくなるなんて!!頭の中でいくら考えたとしても、いま手元にないという現実は変わらない。冷静になり、まずはゴルフ場にレンタルクラブがあるかを確認した。幸い借りられるとのことで、ほっと胸をなで下ろすも、頭の中ではクラブの捜索が続いていた。
バックヤードに立ち寄りレンタルセットの中から5本ほど選び、カートに積み込む。いつも一緒にプレイしてくださる方からは持っていない人が借りることはあっても、忘れてしまって借りる人はほとんどいないなどとも言われた。ごもっともなご意見と照れ笑いで頷きながら、練習する時間がないまま、初めて握るドライバーでティーショットを放った。クラブの長さもシャフトのしなりも、自分のクラブとはまるで違う感覚だった。数回打ったところで、結局ティーショットは自分の3番ウッドで打つことにした。これで一つの問題は解決。しかし、今度は途中で使うクラブが合わなくて、次の問題が発生。仕方なくレンタルの7アイアンで刻みながら進むことにした。
そんなふうにしているうちに、ふと昔の山の記憶が蘇った。
深夜出発の甲斐駒ヶ岳で、ヘッドライトの電池が切れ、前を行く人の雪に反射する灯りを頼りに夜明けを待ちながら登ったこと。また昇己師匠と雪の富士山に登った際、師匠がクランポン(アイゼン)を忘れ、山小屋で古いのを借りて登頂したこと。・・・何かが足りない状況でもできることを探して目的を果たすのだと山でいつも学んできたことだった。今回もきっと同じこと。そう思うと、少し笑えてきた。
私のゴルフ人生は、まだ始まったばかり。これからも、こうした思いがけない出来事が起こるのだろう。そしてラウンドの途中で、連絡が入り、クラブが見つかったことを知った。
犯人はまさかの身内。家族が車から下ろして、そのまま積み忘れていたらしい。見つかって一安心。しかし集中できなかった時間や、レンタルクラブに戸惑った自分を思うと、安堵とともに小さな怒りが湧いてきた。
そして数日後。今度は自分のミスでゴルフシューズの片方を車に乗せ忘れ、仕方なくランニングシューズで練習することになった。
ことわざに「弘法筆を選ばず」というが、未熟な私は、道具を選ばずにはいられない。
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