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マウンテンマネー「7大陸北米編5」

キャンプ1から次のキャンプへ移動する。出発前にメンバーの多くが荷物を少しでも軽くしたいと余分な食料や本などを埋めた。移動が始まると一時間に1度くらいのペースで休憩。 止まるとニューリーダーのカーティスが叫ぶ、「Over jacket! Eat.! Drink!. Sunscreen! 」休む度に叫ばれ、それはまるで軍隊の掛け声のようだった。

トイレがしたくなったらその場でする。南極で身に付けたタッションが役に立つけれど、ここも隠れる場所はなく、クレバスが潜む雪原ではどんな時もロープを外すことはできない。休む度に皆の口数が減る。荷物がとにかく重い。およそ8時間歩きキャンプ2を飛ばし、キャンプ3(3353m)に到着した。歩き疲れて休みたいけれど、すぐにテントを張るために雪ならしの作業が始まった。そんな私達を星野さんは、送り込まれる奴隷のようだという。ロープに繋がれ、重たい荷物を運ばされ、極地雪山の建築作業現場に送り込まれていると置き換えてみたら、笑いが込み上がる。

テント設営に1時間、トイレの壁は雪を切り出して設置し、雪を溶かして水が出来るまでは2時間以上になる。眠い、疲れた、横になりたい、けれど水分が欲しい。クッキーと冷めた水で空腹を凌いでも、ひもじい。待ちに待った夕飯はショートパスタのクリームソース、もうなんだってご馳走である。その頃私はお腹の調子が悪くて何度もトイレに行っていた。だから手持ちの紙が無くなりそうで困っていた。

食事の時に仲間に紙を数10センチでよいから分けて欲しいと強く頼んだ。皆の反応は鈍く、紙を分けてくれたのは星野さんとアツ。他の人が紙で食器を拭くのを見て恨めしく思わずにはいられなかった。ガイドさんにもお願いすると、デイヴが余ったロールをくれた。トイレットぺーパーは ‘マウンテンマネー’ だと言う。深く頷き、分けてくれたメンバーには心から感謝。翌日は埋めた荷物を取りに行く日、私は荷物を運べないのでキャンプでデイヴとお留守番。 皆を見送り、私のトイレットペーパーの帰りを待つ。

2時間しないうちに皆が戻ってきた、早く欲しいのはトイレットペーパー。でも荷揚げをしてもらった手前そこは気持ちもおしりもグッと堪えなくてはならない。堂々としていれば良いんだと自分に言い聞かせても、同じテントの女子がなぜ私は行かないのかと、訝しんでいるのを感じる。大自然の中での抑圧生活と重労働は人の理性を消し、押し殺された感情を引き出す。怖いのは肺水腫とリンパ浮腫、これにならないために人からどう思われようと気にしてはいけない。アイポッドの好きな音楽を耳に、集中、集中と日々を過ごす。

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