ホワイトアウト
北海道では、ここ数日、辺りが見通せない日々が続いた。北海道と言っても広大であり、地域によって雪質も行政の除雪体制も大きく異なる。
私の拠点では、比較的除雪体制は整っている。家の周辺は、町から委託を受けた農家の方が担当しており、雪が積もれば早朝でも深夜でも作業をしてくれる。敷地内についても「道路のついでにお願いします」と頼んである。

隣家が見えない距離に暮らしていても、集落の中では、困ったときはお互い様という助け合いがある。

一方、市内へ出ると様子は変わる。道路脇には排雪用の堀スペースはなく、雪を捨てるにも予算の制約があるため、除雪回数や排雪には限界がある。だから中心部での車移動には支障が出やすい。二車線道路では白線が見えないだけでなく、道脇に積み上げられた雪が塀のように迫り出し、道幅を狭めて走りにくさが増す。
多くのドライバーは速度を落として慎重に走っているが、中にはスピードを出し、車の合間をすり抜けるように走る者もいる。視界不良の日には前も後ろも車が見えなくなくなり、雪に覆われたテールランプやウィンカーは合図としての役割を果たさない。
私が最も恐れるのは、道路の端がわからなくなることである。それ以外にも他車の幅寄せ、予測不能な動きに巻き込まれはしないかと、毎回緊張を強いられる運転となる。
ある日、世話になっている美容室へ行くと、店前の道路で除雪作業が行われていた。近づいて見ると、道路脇の蓋を開け、そこへ雪を投げ入れている。中をのぞくと勢いよく水が流れており、忠別川を利用した流雪溝だという。

そんな設備があるとは今まで知らなかった。髪を切ってもらいながら、窓越しに続きの作業を眺める時間は、なかなか興味深いものであった。
除雪の仕上げ方には、人それぞれの個性が出る。丁寧に整えられた雪面を見ると、不思議と心が清められる気がするのである。

夕方、自宅へ戻ると何故か家に入る前に玄関周りの雪かきをしたくなった。良い運動にも筋力トレーニングにもなるが、急に張り切れば右腰を痛めかねないので、ほどほどに切り上げて家の中へ入ることにした。
私の経験から描く冬の北海道の道とは何であろうか。青く澄み渡る空の下、どこまでも見通せる景色と、つるつるのブラックアイスバーンか。それとも、ふわふわの雪が舞い、視界が白く覆われ、走っているのに止まっていると錯覚する景色と、意外にもタイヤの効く路面か。どちらが走りやすいのかと、しばし考える。

やがて気温はプラスへ向かい、春が近づく。
対向車、とりわけトラックとすれ違うたびに、大量の雪解け水がフロントガラスを覆い、視界が一瞬奪われる季節が始まる。目を閉じないようにとハンドルを握るスリルもまた、北海道の冬の終わりを告げる日々の生活の一部である。
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