NARUTO
エヴェレストのベースキャンプには、高所順応や天候待機のため約一か月滞在していた。毎日たっぷり時間があるから、暇をつぶせるものを持参するようにと言われていた。そこで私は、ネットフリックスの映画やドラマに加え、大量の推理小説をダウンロードして向かったのである。
映像作品は楽しめた。しかし、大好きな推理小説は、読んでも内容が頭に入ってこなかった。標高の影響による酸素不足で、脳がいつものように働かなかったのだと思われる。
そんな中で不思議と頭にすっと入ってきたのが、アニメだった。子どもの頃はそれほど漫画を読まず、大人になってからは「漫画を読むことはあまり尊敬されない」と言われたこともある。しかし今や、漫画やアニメは日本を代表する文化の一つであり、世界中の人々を魅了する存在となっている。
日本で開催されるアニメイベントには各国からファンが集まるという。会場で「好きなアニメは何か」と尋ねると、多くの人が同じ作品名『NARUTO』を挙げていた。

家族に「どんな物語なのか」と尋ねると、「知らないの? 忍者の話で、主人公はうずまきナルト。とても面白いよ」と即答された。半信半疑でネットフリックスを開き、視聴を始めた。気づけば750話を超える長編シリーズを、数か月にわたりほぼ毎日観ていた。単に面白いだけではない。今の自分だからこそ理解できる台詞や葛藤があり、人生論や社会の縮図ともいえる題材が随所に散りばめられているのである。
主人公ナルトの好物はラーメン。その息子ボルトの好物はハンバーガー。その二つを融合させた「ナルトバーガー」が期間限定でハードロックカフェに登場したと知ったとき、私は迷わず平日の混まない時間に席を予約していた。

まさか自分が、アニメとのコラボメニューのために予定を調整する日が来るとは思ってもみなかった。バンズの間には肉厚のパティ、分厚いチャーシュー、さらに揚げた麺まで挟まっている。奇抜な組み合わせであるが、驚くほど調和が取れていて美味であった。店内にはどこか懐かしい洋楽が流れ、その音楽を楽しみに訪れている客もいるようであった。
そんな気まぐれに付き合ってくれた友人とは長い付き合いである。音楽が流れる店内で話していると、その友人は長年ギターを練習しており、最近はボーカルと三人で練習会をしているという。バンドではないが、好きな曲を気楽に楽しんでいると語る。
そして何気なく「ドラムはいないから、よかったら一緒にやらないか」と持ちかけられた。ドラムを始めてまだ一年。8ビートがやっとである。楽譜はなくて「好きなようにやればいい」と言われても、好きなように演奏できるのは経験豊かな人だけだと思ってしまう。
そういえば少し前、音楽教室の講師から「そのうちバンドを組むようになったら」という話をされた。そのとき私は、そんな未来は自分には訪れないと心の中で否定していたのである。しかし突然形はどうあれ他の楽器と合わせる機会が目の前に現れた。
思い返せば、高所登山を始める前にも似たような出来事があった。「南米の山に行かないか」と急に誘われたのである。経験も知識もない頃に不安よりも好奇心を優先し、その場で行くと決めた。その時の選択で今がある。であるならば、今回も同じではなかろうか?深く考えず、「参加します」と答えるのが正解なのであろう。

トレーニングジムではいつもナルトの話題で盛り上がる。パーソナルトレーナーから借りた漫画を読み返しながら、練習曲をどう叩くか考える。
ナルトの日々頑張る修行の姿を励みに、自分もまた新たな一歩を踏み出そうとしている。

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