A.B.C.へ引き返す 「エヴェレスト ~7大陸アジア編38」2019年
C2に着いて酸素ボンベの調整や交換をしてからまずはC1を目指す。
降りて行くほど風が弱まり、視界もだんだんと開けてきた。
下山していると言うよりは逃げているような気持ちで歩いていた。
休憩の度に溢れる溜息は緊張から解放された安心と少し心残りなものだった。
C1に着くと安心感の方が上回り、椅子に座って長めの休憩をした。
キャンプに待機していたアメリカ隊の方がお湯を差し出してくれた。
とても美味しくて喉からすうっと体の中に染み込むように消えていった。
そこからさらにA.B.C.へ降りる。
フィックスロープに腕を巻きつけて雪面を下る。
どこか足が重たい。
ゆっくりとしか動けなかったがが来るときに残置しておいたストックを回収して、フラットな道になると少し動きも軽くなった。
あたりが暗くなり始めて、とぼとぼと歩いていると前方から私たちのシェルパさんが飲み物やお菓子を持って来てくれた。今までにも何度かそうしてくれて、涙が出るほど嬉しい。
シェルパさんと別れてクランボンポイントのところからはヘッドライトをつけた。
様々な疲れで、岩の道を歩くのは辛かった。
A.B.C.に着いたのは21時くらい。
テント内全室で荷物を下ろし靴を脱ぐとそのまま椅子に座り込み、
しばらくはぼーっとしかできなかった。
大分落ち着いてから夕食を食べて個人テントに横になった。
翌日は5月24日、山頂に行っていたかもしれない日。
無線でいろいろな情報が入り、ヨーロッパ隊は全員登頂したが、1名が下山中に亡くなったと知らされた。渋滞があり数時間動けなかった話など山頂付近での大変な事態を聞いた。
隊長が下した “今回は引き返す” という判断は間違いなく正しかった事を再確認した。
A.B.C.には2泊。
早く戻りたい気持ちはあったけれど、ベースキャンプまでの道のりは長い。
少しでも疲れを取った方が良い。
荷物をまとめて明日はベースキャンプに戻る。