最終順応は5月の連休「エヴェレスト~7大陸アジア編35」2023年

最終順応への出発が深夜に延期になると精神的な緊張が緩み、それが理由で一番熟睡した日になった。翌日に、Wi-Fiカードを買いにペンバーと一緒に小雪が舞うベースキャンプの奥まで散歩に出かけた。
ベースキャンプを歩いてもあまり人に会わない。みんなすでに上のキャンプへ行ってしまったのだろうか?カードを販売するキャンプの近くでペンバーの知り合いに会い、ミルクティーを振る舞ってもらった。シェルパさん同士は皆顔見知りで仲が良いように見える。新しいカードを手に入れて自分のテントに戻ってからもう一度荷物の確認をした。今夜再トライする順応の旅にドキドキしてしている。今日も昨日と同じく夕食を食べたら仮眠をする。今宵は天気が良く、24時に起きて出発の準備を始めた。
私がリクエストした軽食は卵の入った野菜のお粥。装備などを身につけてプジャの祭壇に立ち寄ってから歩き始めた。満月に照らされた夜空と氷河はとても幻想的で、順応の旅の始まりにふさわしい光景だ。
この間練習に来たところを過ぎて、危険なアイスフォールを通過する。場所によっては早歩きで移動したりするので息が上がる。気温の低い夜中に出発するのは、日中に比べてアイスフォールが崩れにくいからである。今回の移動では私の荷物は二人のシェルパさんが手分けして運んでくれて、私は空身でフィックスの掛け替えはペンバーが自分ついでに一緒にささっとやってくれた。とにかく早く行動することが肝心であるが、標高が6000mとなると動けば息が上がってしまう。
段々と陽が昇り辺りが青白くなってきた。アイスフォールを登り切ると広大な雪原とその先の氷の壁には登っている人の列が見えた。クレバスに渡された梯子を渡ったり、何度か氷壁を登り降りして8時間近くかかって5月5日の朝キャンプ1に着いた。
外の気温は低いけれど、テントの中にいるととても暑くて睡魔も襲ってくる。順応するためにはすぐに寝たりしない方が良いので必死になって重たい目を開けていた。お湯を作ってもらってフリーズドライの食事をしたり水分補給をしていたが、眠過ぎて何もできない。ただただ睡魔と戦う半日がなかなかの修行の時間。トイレは風で雪壁がなくなり穴も埋まっていた、お尻を出すと凍りつく感じだった。
夜中じゅう風が強く、細かい氷がテントをシャカシャカと打つ音が聞こえていた。夜中まで一度眠れても、そのあとは息が苦しくて深呼吸をしながらただ横になって朝を待っていた。マットの上にいてもとても寒くて体がすっかり冷えてしまった。5月6日6時に起きて、準備して7時に出発することになった。外に出るとさらに寒く、準備をする手が悴み、ハーネスを履くことができない。ペンバーの助けでクランポンを履かせてもらい自分では何もできない人になっていた。歩き出すとクレバスを渡る梯子がいくつもあり、2時間ぐらいはとても慎重に行動をしていた。進むにつれて視界はさらに広がって、左手の向こうにはテントの色が見えてきた。もう近いのかと思ったけれど、キャンプ2が見えてからがとても遠く、標高6500mになるにつれて歩く速度は落ちていく。日差しが強くて暑い中での移動はまた違った大変さがあった。
私たちのキャンプ1サイトは手前にあって、キャンプ2サイトは奥の方にあった。
重たい一歩に深い一息、これからさらに上のキャンプへ向かうなんて想像もつかない。それでもキャンプ2に辿り着けたことが嬉しくて神様ありがとう!と口にしていた。2023年5月6日キャンプ2入り。