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肺水腫「7大陸南米編5」2016年

ベースキャンプ2日目は休息日。朝起きると肩や腕が痺れていたので血中酸素濃度を計ると数値には問題はなかった。寝ているときは口を塞がれたように苦しくなり、目が覚めては深呼吸。その次に苦しくなるまでは横になるといった仮眠状態だった。経験者に相談してみると標高を上げればもっとそうな理、そんなに珍しいことではないという。はじめての高所滞在、そんなものなのかとやり過ごすことにした。夜になるととても風が強く吹きテントが大きく揺れて、あられが叩き打つ音が朝まで続いた。外で出ると雪で辺り一面が白く覆われ、頭の下の方が明らかに痛い気がかりな3日目が始まった。

日中は近くの廃墟となったホテルへ散歩に出かけたが、何をしても息が苦しい。それなのにドクターチェックに行くと、問題はなく上に上がる許可がもらえた。キャンプ内を歩くだけで息が苦しいのにちゃんと登れるのかと不安がよぎった。

そして1月24日の夜、寝ていると自分の呼吸に異変を感じた。強めに吐くとコポコポと音が聞こえる。なんだろう?気のせい?そうに違いないと眠るようにしたが、やはりおかしい。隊長を起こしドクターのところへ行くと、体を45度起こした状態で横になり朝9時にまた来るように言われた。もう一度診療所へ行くと肺水腫ですと言われた。薬を飲み注射を打たれた。下山の為に救助ヘリを要請してくれたが、天気が悪くヘリが来ない。

酸素マスクをしばらく使い、様子を見ながら安静に過ごしていた。その翌日は広いダイニングテントにマットを借りそこで安静にしながらヘリを待つことにした。隊長たちは順応のため上のキャンプ地を往復しに出かけた。にこやかに見送ったけれど、目頭は熱くなり、登れないなら早く町へ降りたいと心で叫んだ。日中に数回往診してもらいながらヘリを待つ。

何度もヘリが来る、来ないのやりとりがあったけれど結局この日もヘリが来なかった。夜が心配なので隊長にダイニングテントに一緒に寝てもらった。夜中に何度も目が覚めて心臓が飛び出すように身体を叩く、息苦しい。酸素濃度を測ると50%ぐらい。これはまずい、トイレをするためには意識呼吸で70%まで上げてから動くようにしていた。眠りにつくこともままならず、ただ45度になり静かにしていた。日に日に衰弱していく感じは死に加速的に近づいているのだとも考えた。体調を崩して3日目の朝、今からヘリがやってくるから10分で支度をしろと告げられた。

スタッフに抱えられながらヘリポートへ向かう。プロペラの轟音の中、無言で機内に押し込まれるとメンバーには何にも言えないままヘリが空に浮き上がった。救われた安堵感とチャレンジ出来なかった悔しさが胸に重たくのしかかっていた。


4日間かかけて辿り着いたベースキャンプ、ヘリでは10分ほどで登山口に着いた。

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