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ランディングポイントへ「7大陸北米編10」

青く澄みわたるキャンプ3の天気をみて誰もが翌日にはランディングポイントに辿りつけると思っていた。しかし喜んでいた全てのチームが予定外のビバークとなった。食糧はだいぶ処分してしまい、食べるものはチョコレートやナッツバーしかなかった。 一晩休み次の日に各チームのリーダーが集められた。

プローブと呼ばれる竿状の棒を持ち、クレバスの状態をチェックに出掛けて行った。
その1時間後にテントを撤収し、全員が歩き出した。先頭チームが慎重に道を探し、その後ろを他のチームが続き長い列となっていた。大きなクレバスにぶつかっては迂回を繰り返し、どうしたら先へ進めるのだろう?滑落を恐れてみんなの気が立ってくる。探し歩くうちにグループがばらけて列はいくつかに分かれた。雪はザクザクに緩みソリの操作にも力を使う。我らのリーダー、カーティスは突如他のチームの列から外れて独自のルートを進み始めた。私の前は星野さん、後ろにアツ、最後は倉岡さん。先頭を行くカーティスは今までになく真剣に大声で指示をだす。

「デカイ穴!」「跳べ!」「止まるな!」「ロープ引くな!」 止まることができないので休憩はない。

体半分落ちるカーティス、片足がはまる星野さん、転ぶ私、アツは穴に脚をとられて脱出に苦労していた。隠れクレバスに落ちる仲間を見て今までにない恐怖があった。集中力が切れると転んだり、ソリが穴に引っかかってしまったりもした。私の右腕は痺れ始め、クレバスに滑落か?リンパ浮腫の再発か?と頭によぎる。喉の渇きには歩きながら雪を舐めて凌いでいた。最後の回り込むところに着くとやっと休憩ができた。何時間にも渡る緊張の連続だった。そしてそこからはハートブレイクヒルが始まり名の通り息苦しい上りが待っていた。そのきつい所をアツが私のソリを引いてくれるという。緩やかな上り坂が体に追い討ちをかけて来る。私はバックパックだけになり今日こそセスナに乗るんだと力を振り絞り歩いていた。

見えていてもランディングポイントは遠い。上空を飛ぶセスナ機のエンジン音を聞いてようやく大きく安堵する。長くて辛らかった日々、肉体的にも精神的にも幾度となく試された。この遠征は気象環境の厳しいところでの強制労働であった。そして何よりも最後の5マイルが最大の難所だった。

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